広島高等裁判所 昭和31年(う)116号 判決
原判決挙示の証拠その他記録に現われた証拠によると、被告組合は従来から食糧管理法令上の米穀の指定集荷業者及び主要食糧小売販売業者中の登録業者として同組合員である米穀の生産者から政府に対する米穀の売渡の委託及び右売渡にかゝる政府米の一般消費者に対する配給業務等を取扱つていたものであるが、組合員に対する各種売掛代金及び貸付金の未収等がかさみ組合の財政が極度に悪化するに至つたため、右債務を整理しその財政の立直しをすべく、当時該組合長(代表者)であつた被告人福場元一、同常務理事横山定夫、同販売係主任伊藤利一は共謀の上、前記のように組合が米穀の売買業務を取扱つていたのを奇貨とし適法な手続によらないで米穀の売買を行い(いわゆる闇取引)その売得金を以て右負債の整理及び組合財政の立直しを行おうと企図し、原判示第一の(一)及び(二)に記載するように、組合員たる米穀の生産者からその生産米の闇買いをなし(帳簿面は米穀以外の農産物の買入れのように記帳す)これを同町の旅館、料理店業者等に闇売りをし、その売得金の一部を組合の手数料として収得すると共にその他を前記債務の弁済金に充当し決済処理した事実を認めることができる。
ところで、食糧管理法第三七条にいわゆる法人の代表者又は法人の代理人、使用人その他の従業者の違反行為が当該法人の業務に関するというのは、該違反行為が法人の業務に関連して具体的に行われその経済上の影響が当然法人に及ぶことを内容とするものと解すべきところ、本件売買行為の如きはもとより法の禁止するところであつて被告組合の正当業務行為とはなり得ないものであることは所論のとおりであるけれども、この場合被告組合は前記同条の規定によりその処罰を免かれることはできないのである。そして原判決が組合の業務に関しと判示したのも右の趣旨においてであることはその引用証拠によつて明らかであり、且つこの場合判決に示すべき罪となるべき事実の表示においては単に右違反行為が法人の業務に関する旨を明示すれば足るものと解すべきであるから、原判決には所論のような理由不備の違法があるということはできない。
又所論は前記第三七条により法人が処罰を受けるのは、法人に当該違反行為の防止につき注意ないし監督義務を尽さなかつた過失の責があることを前提とするものであつて、このことは同条但書の規定によつても明らかであるところ、本件は法人の機関たる者がみずから違反行為に出た場合であり、かような場合は法人としては注意ないし監督義務を尽すことが始めから不能であつた場合であるから被告組合にはその責がなく従つて処罰を受ける場合にはあたらないと主張する。なるほど法人の代表者以外の法人の代理人、使用人その他の従業者が法人の業務に関し違反行為をした場合同条により法人が処罰を受ける根拠は、法人に注意ないし監督業務を尽さなかつた過失の責の存することを理由とするものと解すべきことは所論のとおりであろうけれども、法人の代表者がみずから故意に違反行為に出た場合においては法人は同条によりその処罰を受くべきものであることは当然とするところであつて、代表者の違反行為は同条但書から特に除外されているのである。そして本件は法人の代表者がその使用人等と共謀してみずから違反行為に出た場合であるからもはや右の過失等を論ずる余地はなく被告組合は当然その責に任じなければならないものというべく、これを所論のように始めから注意ないし監督をすることが不能な場合であるとしてその責を免かれ得べきものではない。所論は独自の見解であつて採用することはできない。
第四点(追加控訴趣意書の分)について
論旨は、被告組合は食糧管理法令上の米穀の指定集荷業者及び登録小売販売業者の資格を有する特別の機関であるから、従つて本件は全然米穀を売買する資格のない者がした場合とはおのずから異るのであつて単純な食糧管理法令上の手続違反行為たるに止まり同法第三一条の処罰規定の対象となる行為ではないというにある。
記録によると、被告組合は米穀の指定集荷業者(但し食糧管理法施行令第五条第一項にいわゆる指定業者であつて、同令第五条の五にいわゆる特別指定集荷業者ではない。所論がこれを特別指定集荷業者というのは誤であると認められる。)及び登録小売販売業者の資格を有していたことは明らかであるけれども、指定業者及び登録小売販売業者といえども食糧管理法令の定めるところによらないで即ち許された正規ルート以外に米穀の買受及び売渡をすることは厳に禁止されているところであり、若しこれに違反するにおいては右違反行為に対しては全然米穀を取扱う資格のない者がした場合と同様に処罰を受くべきものであつて、その間別異に取扱うべき特別の規定等も又存しない。本件は正規ルート以外において米穀の売買をしたものであることは論旨第一、二点に対する判断において示したとおりであるから原判決がこれに対し判示法条(買受行為に対しては食糧管理法第九条第一項第三一条同法施行令第六条、売渡行為に対しては同法第九条第一項第三一条同法施行令第八条同法施行規則第三九条)を適用処断したのは相当であつてその間何等の誤はない。なお同法第三一条の処罰規定はその内容を為す具体的構成要件は前記法、施行令、施行規則の規定によつて補充されおのずから明らかにされているところであるから何等所論のように罪刑法定主義に反するものでもない。それ故論旨は理由がない。
(裁判長判事 柴原八一 判事 尾坂貞治 判事 池田章)